円安雑感

円安は国益ではない。イールドカーブコントロール(YCC)で長期金利を押さえつけると今後大きな代償を支払うことになると思われる。

【円安のデメリット】日本人の資産が目減りする。日本人の資産のほとんどが円資産である。そんな状況で円の価値が下がれば日本人全員が損失を受ける。日本人の個人資産が2000兆円でそのほとんど預貯金である。今年に入って円は10%以上下落したが、ドル換算なら200兆円ぐらい資産価値が落ちている。実際にはドルが年に8%ぐらいインフレで価値が落ちているので円の価値の暴落は400兆円近い損失だ。短期的な出入りでいえば日本にはプラスかもしれないが、これまでの稼いだ資産価値を考えると損失が大きいのは明らかだ。

【今後、具体的に考えられること】

【ケース1】円安が進むとどこかでYCCを解除することになるが、そのとき長期金利が急騰する。そして大幅な円高が起きる。イメージとしては、スイス中銀の無制限スイスフラン売りが解除されたときの動きと同様。ボラタイルな動きは世界中の金融マーケットを揺るがして金融危機が発生する可能性がある。

【ケース2】YCC解除で金利が急騰して、財政懸念に火が付き円安・インフレがさらに高進。どうしようもなくなって預金封鎖をして国民のお金で借金をなかったことにする。こちらも金利為替ともボラタイルな動きになって金融危機発生。

日銀はインフレは一時的と考えているようだが、根っこに脱炭素によるグリーンフレーションがあるので一時的にはならない。これに加えてウクライナ危機で世界の分断が深まり資源供給に問題が起きればインフレは加速するであろう。ケース1、ケース2であれ、すべての問題の始まりは長期金利を制御しようとしたことである。これによって債券市場は市場機能が失われ、債券市場に歪な偏りができた。歪な偏りは必ず是正されることになるがインフレが一時的ではないとすれば、日銀が無理に金利を押さえつけたことによる歪みは大きくなりその反動はますます大きくなる。

FRB第二次世界大戦時にYCCを行ったが、政府との調整や長期金利に介入することの難しさからYCCはすべきではないと結論づけた。日銀のYCCについても同様の問題が出ており、利払い増加を懸念する政府とアベノミクスを否定されたくない自民党内のリフレ派との関係で正しい金融政策の変更が行えていない。さらに、市場機能の低下によってYCC解除したときの動きが相当ボラタイルになり金融危機が発生する可能性が高い。

ベストケースは、インフレが一時的で米国が再びゼロ金利になるときにYCCを撤回することだが、前述したようにインフレの時代に突入したと考えればその期待は裏切られると推察される。FRBのパウエル議長も再三再四、インフレは一時的と発言していたが結局インフレは高進した。これはパウエル議長が今回のインフレは新型コロナウィルス収束による需要の一時的な増加と考えていたためだが、それはあくまで一つの要因にすぎず脱炭素による化石燃料等への投資が減退して供給不安が出てきたためと考えられる。

【デフレギャップ】日本で消費者物価指数2%以上というのは無理筋である。様々な記事でデフレギャップ(需要が少なく供給過多)になっているのに金融政策を正常化するのはナンセンスとの話がある。そもそも人口減の国で需要の減るのは当たり前である。たとえお金をたくさんもらったとしても一人でご飯3杯は食べられないのだ。同様に、消費者物価指数(CPI)が2%以上になっていないのに金融正常化はおかしいとの話がある。しかし、CPIが2%以上という数字に実は何の根拠はない。米国では2%という話なだけである。米国は移民の国で生産人口年齢は極めて低く人口が増えており人口動態のまったく違う国である。それなのに同じようなCPIや成長率を求めるのは意味はないだろう。若者はご飯2杯食べられても、年寄りはそんなに食べられない。当然、需要は落ちるしCPIは低くなるし、それで問題ないのだ。その国ごとの人口動態によって適度な成長率は変わってくるはずだ。

【CPI】日本のCPIは問題点が多く実際のインフレ率は数字以上になっている。米国と日本のCPIを比較すると大きく違うのは医療費と住宅費である。それ以外は実はそこまでインフレ率は変わらない。住宅費に関しては人口減の国(日本)と人口増の国(米国)で比べても仕方がない。問題は医療費である。医療費は少子高齢化と医療の高度化で年々高騰しているが皆保険によって医療費の支出は抑制されられている。しかし、その負担は社会保障費という税金で徴収されているためCPIに反映されておらずこの部分を考えれば十分にインフレしている。

【緊縮財政】日銀よりも財政支出をしない政府が悪いという指摘がある。しかし、小渕政権時代に積極財政をしたが結局上手くいかなかったことを忘れてはいけない。積極財政したところでその効果は一時的で持続可能ではなかったということである(国の借金の多くは小渕政権時代の財政出動によって生まれた)。結局、人口減の状況では積極財政にせよ、金融緩和にせよ需要は増えない。当たり前だが、お金がたくさんあっても一人でご飯を三杯も4杯も食べられないのだ。

社会保障費】日本の低成長の原因は、社会保障費増大(2025年には200兆円!?にも達する)による可処分所得の低下である。可処分所得の低下は少子化を促しさらなる成長低下を招いている。また、医療費の増大は少子高齢化だけではなく医療の高度化によるところも大きい。IPS細胞やチェックポイント阻害剤のオブジーボのように医療の研究開発費は高騰を続けており、それらの高度医療の成果を皆保険で負担することは難しくなっている。小泉政権社会保障費減額や後期高齢者負担の増加が行われることが決まったが、小泉政権後、散々な批判をあびて立ち消えになった。そのときの苦い経験があるため、なかなか言い出せないのかもしれないが、医療の高度化で全員が等しく高度な医療を受けることは難しい時代になったことをきちんとアナウンスすべきということだ。

【消費税減税】いろいろなところで富の再分配が重要視されているが再分配の内訳をみると日本では介護医療年金の高齢者への再分配部分に偏っている。消費税を無くすと現役世代から200兆円もの社会医療費を調達する必要がある。高齢者にも負担してもらうための税金と考えると都合が良いが結局のところ、社会保障費の減額に手を付けられないので消費税を増税するということであろう。

【結論】政府と日銀は長期金利の介入をやめて、金利の上昇と向き合うべきだ。すぐに財政破綻するわけではないが、金利上昇の利払いと真摯に向き合って社会保障費のカット、税制改革、少子化対策の再分配について改革を行うべきである。生産年齢人口が増えなければデフレも止まらない。